西岸良平作品紹介その1 「ミステリアン」編

西岸良平(さいがんりょうへい)という漫画家をご存知ですか?
最近ではヒット映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の
原作になったマンガを描いている人、
と言うと分かりやすいかもしれません。
主に小学館、双葉社で仕事をされていて、
代表作は「三丁目の夕日・夕焼けの詩」、
「鎌倉ものがたり」などです。

もっとも有名な「三丁目~」のシリーズなど
あたたかい人々やほのぼのとした雰囲気の描写に定評がありますが、
実はこの方は藤子・F・不二雄先生に負けじと劣らない
SFマンガの名手でもあります!
それもこの場合の「SF」は、
藤子F先生の言うところの「すこし・ふしぎ」とも
それほど遠くないところにあるのではないかと思っています。

西岸良平氏の絵柄はかなり独特なため、
合う合わないという部分も生じるかと思いますが、
藤子・F・不二雄や、ドラマ「世にも奇妙な物語」
といった系統が好きな方にはぜひおすすめです!

以前に奥田ひとしさんによる漫画版「天地無用!」の紹介でも
同じ事をやったのですが、
いかんせん西岸良平作品に関する感想・紹介がネット上に少ない!
と感じるため、ネット上にひとつでも感想を送り出そうという
コンセプトの元で、今回も布教記事を書いていきたいと思います。

私事ですが近頃日常生活で時間が取りにくくなっているため、
かなりマイペースな更新となりそうですが、
「日常の中に入り混じるSF」という要素と
「ほのぼの&あったか」という要素を
両輪として持ち合わせる西岸良平作品について、
どこか「機会があったら読んでみようかな」と
感じていただける箇所がありましたら幸いです。
「三丁目の夕日」ばかりが西岸良平じゃありませんよ!


☆「ミステリアン」

それでは早速ご紹介する一作目は
双葉社よりアクションコミックスほかで発行されました
「ミステリアン」!

画像西岸良平著「ミステリアン」


特に美人というわけでもない平凡な外見の女性、ヒロミ。
彼女は時にOL、時に喫茶店店員、女子高校生、保母、
通いのお手伝いetc…として様々な人生を生き、
人々の暮らしを見つめていた。
その正体は「ミステリアン」と呼ばれる
遠い星からやって来た宇宙人であり、
地球人として生きる中で、
地球と人類に関する調査を行うという
任務を負っていたのだった。
金、酒、愛、犯罪、芸術、家族、老い‥‥
不老不死に近い肉体と超能力を持つ、
彼女らミステリアンには
不可解にすら見える地球人の生態。
ヒロミは調査の中で、
そうした魅力と欲望の渦に巻き込まれ
宇宙人としての意識を蝕まれていく。
しかしそれは傍観者ではなく、
地球に生きている者として、
当然の心の変化に他ならないのかもしれない。
こうした魅力や欲望の数々は、地球人の
制約の多く短い人生を美しく彩る「夢」であると
実感するヒロミだった‥‥

宇宙人の視点から、不可解にも美しい地球人の生態を見るという物語は、
今(2006年秋現在)放送中の缶コーヒーのCMにも似ていて
決して珍しいものではないかもしれません。
しかしながら、それでも私たちにとって当たり前になっている要素について、
その素晴らしさ、愚かさを再認識させてくれる面白さがあります。
そしてこの作品の場合、これに加えて
ヒロミが地球の生活に染まっていく過程、
言ってしまえば「堕落」していってしまうというところに魅力が。
作中では「地球病」と語られる、ミステリアンに起こる心の病‥‥
地球上の様々な欲望と快楽に魅入られてしまい、
進行すると自分が宇宙人であることも忘れてしまうのですが、
地球人になりきって調査を行う日々の中では、
当然の変化であるようにも思えます。
マンガとしても、ヒロミがずっと冷静で客観的な傍観者であり続けたら
多分面白くもないことでしょう。
彼女は半ばアル中になったり、男とホテルに行ったり、
不良少女になったり、カラオケに夢中になったり、
惚れた別れたを繰り返して落ち込んだり
と、
すっかり地球人らしくなっております。

一冊完結の物語としても秀逸で、
「犯罪者」、「恋愛」、「教育」、「親子の愛」、
「老い」、「芸術」、「アイドル」
といった要素に沿う調査の話に加え、
なぜかペンギンの姿をして現れた
他のミステリアンと共同生活をすることになったり、
地球侵略に来たミステリアンと戦うことになったりと
盛りだくさんの内容。
表紙がなんだか「勘違いした宇宙戦争」っぽいのはこのためです。
そして最終話は、改めて「美しくも儚い地球と地球人」
というものを感じさせる、考えさせられる内容に。

以下、若干ネタバレを含みつつ各話紹介をしていきたいと思います。
絶版になっていますが、アクションコミックス版に基づく構成です。

PART.1 「不思議なヒロイン」
一代で巨万の富を気づいた会社社長、南部の目に
一人の女子社員がとまる。
彼女から「あなたは自分がミステリアンであることを
忘れてしまっている」という事実を聞かされるのであったが‥‥

PART.2 「まぼろしの海」
喫茶店で働くヒロミのもとに、人を百人も殺したという
凶悪犯が押し入る。
海のそばの村で平凡に暮らし続けていたならと語った彼に
死の間際、ヒロミは別の人生のシミュレーションを行う。

PART.3 「やさしい悪魔」
酒の魅力にとり付かれたヒロミは、そんな彼女を心配してくれた男性、
森下と恋に落ちる。しかし些細なことでケンカした彼女は
自分の感情と肉欲をコントロールできずに自己嫌悪に陥る。

PART.4 「家族の絆」
幼稚園の保母として働いていたヒロミは
自分の息子を愛するあまり、無意識下にもう一人の自分を具現化させて
他の子どもを建物から突き落としている母親を目撃する。
しかし本当の息子ではないと分かった途端に母親の態度は一変して‥‥

PART.5 「二人のキャンバス」
画家を志す青年、佐伯と同棲していたヒロミ。
彼女は佐伯を一流の画家にするために
コンピューターを使って世間が求める色彩や形を脳に記憶させ、
名声を得させることに成功するが‥‥

PART.6 「非行少女」
高校三年生として地球人の教育を調査することにしたヒロミ。
本来高い知能を持つ彼女だが、コンピューターに地球人並まで
知能を落とされ、たちまち劣等生に。
そんな時不良グループと意気投合して‥‥

PART.7 「ペンギンを連れた男」
ヒロミの前にペンギンをペットにしているという男が現れる。
実は男はロボットで、ペンギンこそが別の星から来たミステリアンだった。
ヒロミの調査データと彼女の母星の情報を求めて襲い掛かるが‥‥

PART.8 「スター誕生」
調査が高じてすっかりカラオケ狂いになっていたヒロミ。
前の話以来同居していたペンギンことラッシーをマネージャーに
アイドル歌手として人気を得るが、
ある事件で一気に転落、バッシングの嵐にあうことに。

PART.9 「侵略者たち」
地球の飛行機を墜落させたのと同じ型の宇宙船を見かけたヒロミは
後を追い、地球侵略が目的という別のミステリアンと遭遇する。
拉致されたラッシーを助け出し、とりあえず逃げることに成功するが‥‥

PART.10 「愛と死をみつめて」
お手伝いとして働いていたヒロミは通いの家のおばあちゃんを気にかけていた。
彼女は過去の美しい夢の中に生きている状態で、
現実ではいわゆるぼけの症状にあった。ヒロミの能力で治すことはできるが、
本人にとってどちらが良いことなのか悩む‥‥

PART.11 「スターウォーズ」
「地球病」のせいではなく、本当にこの地球の人々、生活が
大好きなのだと感じたヒロミは、侵略者たちと戦う決心をする。
そしてとうとうバトルロボットにより街の破壊に乗り出す侵略者たち。
実はこのロボットにはヒロミが世話になった工場の社長が
洗脳されて搭載されていたのだった‥‥

PART.12 「地球の長い午後」 (最終話)
ヒロミたちが地球を侵略から守った戦いから十数年、
一年ぶりに会っていたヒロミとラッシーは酒場で
侵略者たちのリーダーと再会する。
彼らもまた地球病に侵され、この地球で平和に生きることを
望むようになっていたのだった。
そしてヒロミもまた、地球人と結婚して暮らすことを願っていた。
しかし、そんな矢先、空から飛来するミサイルが‥‥

  ◇
いかがでしょうか?
何となく「読んでみたい」という気がしてきましたでしょうか。
私の拙い文章ですとうまく表現できないのですが、
おそらく上の紹介を読んで受けるイメージより
実際の本はもっと面白いです。(汗)
人間生活に対する批判みたいな部分もありますし、
逆にその素晴らしさを再認識させられるところもあります。
そういう難しいことは抜きにしても
調査はどこへやらすっかり地球人並みになってしまっている
ヒロミたちのキャラクターも魅力的です。

個人的に好きなエピソードは
「家族の絆」と最終話「地球の長い午後」。
「家族の絆」では自分の血をひく子どもだから愛するという母親と、
自分の産んだ子ではないけれど同様に愛する母親の対比が印象的。
「三丁目の夕日」の鈴木一家のそっくりさんも必見?

最終話はかなり思い切った結末で‥‥
色々考えさせられて、ちょっぴりホロリと来ます。
シリーズものの西岸作品でちゃんとした完結があるものは
実はそう多くないのですが、
この「ミステリアン」という物語は
この終わり方でこそ名作に足らしめるものになっていると思います。

  ☆
現在この作品を読むには以下の方法があります。
1.古本屋で「アクション・コミックス」版(1985年4月初版)を探す。
2.古本屋で「アクションコミックスA5判」版(1991年4月初版)を探す。
3.古本屋で「3Coins アクションオリジナル」版
  「西岸良平名作劇場 ミステリアン」(2001年6月初版)を探す。
4.新刊書で「西岸良平名作集3」(双葉文庫・1997年2月初版)
  を購入する。
5.「3Coins アクションオリジナル」版、
  「西岸良平名作集 ミステリアン」が再版されるのを待つ。

2は変形サイズなだけで構成は1と同じ‥‥だと思います。
3の「3Coins」シリーズはいわゆるコンビニ用廉価版のことです。

1と2のみが完全収録のオリジナル版で、3のコンビ二版、4の双葉文庫版は
全話は収録されていませんのでご注意ください。
未収録話が何かまでは調査できていないのですが、
上に挙げた各話紹介を参考に、手持ちのシリーズをご参照ください。

アクションコミックス版の二種類とコンビ二版は
現在絶版になっているため、
確実に入手できるのは不完全収録の双葉文庫版のみです。
「全話気になる!」という場合は、古本屋めぐりの旅に出ることに‥‥

そして5について、つまりコンビ二版の再版を待つということなんですが、
どうやら2006年10月現在、西岸作品の他のコンビ二版シリーズが
再版されているようなので(「ヒッパルコスの海」など)
可能性があるかと思えるため一応挙げておきました。
もし本当に再版されましたら即買いをおすすめします。

以上、なかなか手にとって読みにくくなっている状況ではありますが、
機会がございましたらぜひご覧ください!


西岸作品の中でもそれほど初心者向きではないものから
始めてしまった気もしますが、
マイペースに他の作品も紹介していきたいと思います。
よろしければ次回もお付き合いください。


<追記>
‥‥西岸作品紹介のほうは
その後滞っている状態になっており、申し訳ありません。

まれに話題にすることがありますので、
テーマ「西岸良平」の記事もよろしければご覧ください。

…近々、また書きたいなあとは思っているのですが。
需要があるのかどうか?

この記事へのコメント

春巻き(管理)
2010年11月27日 11:12
こんにちは。古い記事でしたがご覧頂きましてありがとうございます。
西岸先生の作品紹介が中断しておりまして申し訳ありません。「ミステリアン」面白いですよね!
他の作品であれば、個人的に「蜃気郎」がとても好きです。怪盗ものなのでSF要素は薄めなのですが、その手口があざやかで度肝を抜くものばかりで読みごたえあります。
その他、血の繋がっていない兄妹と強力な力を持つ猫又「ワニ丸」の日常を描いた「青春奇談」(赤い雲)は若干ホラー寄りで、「世にも奇妙な物語」で映像化されたこともあります。
藤子F作品との関係で言えば、「地には平和」という短編があり、「ひとりぼっちの宇宙戦争」に近いのではないかなと思います。こちらは以前は「魔術師」という短編集に収録されていました。
現在、双葉社がコミック文庫として順次復刊しておりますので、いずれの作品も入手可能です……が、文庫化の際に一部の作品が未収録になっている可能性があります。確認ができていなくて申し訳ありません。
現在も連載中の「鎌倉ものがたり」も、SF要素、ホラー要素、探偵もの、日常描写など、西岸作品の魅力を結集したシリーズになっておりますので、よろしければご覧になってみてください。
長文失礼しましたが、お手に取りやすい作品からぜひ楽しまれてください!
ショウジショウイチ
2010年11月27日 01:13
最近『地球最後の日』を読みまして、『ミステリアン』『ポーラーレディ』を読みました。『ミステリアン』は特に面白かったです。藤子F不二雄先生のSFも好きです。西岸先生で他におすすめ作品はありますか?

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